2006年10月22日(日)
第25回蒜山高原マラソン全国大会
- ハーフマラソン一般男子の部
- 記録 2時間31分32秒
そのとき、足が止まった。
およそ5キロを残して足が前に出なくなった。自転車に乗って、横の自転車道を走り付き添ってくれていたワイフと友人から「ガンバレ」の声とともに「大丈夫か」という声が掛けられる。どうやら大丈夫じゃないらしい。この時点で本人的には、これまで培ってきた走り美のスタイルを維持していると思っていた。維持できているからこそ最後まで走り切れると考えていた。
前日、大会のエントリーを済ませゼッケンを手にした。昨年と同じく、やはり コテージNadja でお世話になることにした。昨年は10キロコース、今年はハーフマラソン。さすがに食事のほうはどうしようかと気になった。Nadjaお得意のジャージー牛の石焼きを食べたいところだが未知のハーフマラソンのことを思うとそれはちょっと厳しいかなと。ところがなんとそんな悩みもどこへやらと独自マラソンメニューにアレンジして対応してくれたのである。そのとき僕のなかで食革命、食レボリューションが起きた。
ここ一ヵ月、体にやさしそうな食べ物を好んで食べるようにしていた。だが徹底的に食べ、徹底的にチカラを蓄えることをアレンジメニューから教わった。準備を重ねるほど痩せてきていたのを少々気にしていた。体が軽くなって足への負担も軽減されるはずだからいいやとも考えていたが、チカラを蓄えるという意味では相反していただろう。走ることと同様に食べることも重要課題であると今では強く意識している。
さて、チカラをたっぷり蓄えさせてもらい。いよいよスタートである。暑くもなく寒くもなく天気は良好、あとはこれまで積み重ねてきた走り美を試すだけである。
スタート。走り出した。次々と僕の前をランナーが走り抜けていく。やはりハーフマラソンを走ろうという人たちは走りが違うようだ。速いし、力強い。レベルの違いを感じつつもその流れに巻き込まれないようマイペースを心掛けた。きっとハーフマラソンを走り切れるだろうマイペースを。しかし、すっかり飲み込まれていたらしい。いつもの二割増しはガンバッテたみたい。
5キロ手前にお馴染み心臓破りの坂がある。ここは序盤戦のひとつのポイントと考えていた。かつてこの坂で心臓を破られた苦い経験があるからだ。だから坂のチカラに逆らわずその斜面に身を任せようと考えた。つま先で跳ね上がっていくというよりは体重移動で足が自然と前に出てくれるのを待つ感じだ。スローダウンはいたしかたない。
おかげで呼吸を乱すことなく登り切ることができた。かかとに重心を置いて、頭部に向けて一本の柱をイメージし、全体重を接地する足裏面にじんわりとのせて地面にそれを流し込む。半年ほど前にトライしていた練習が役立ったといえる。
5キロを超え、折り返して15キロまでの区間は未知の領域。心臓破りの坂を終えホッとしていたが次なる段階をどう進んでいくべきかわからないままでいた。
次の目標は折り返し地点に到達したとき、それまで走ってきた道のりを折り返せるだけの余力を残して迎えることと設定した。いまだ知らない領域に向けてムリのないムダのない走り、つまり走り美がより一層求められるということになる。
繰り返しになるが、ここでも重心をかかとでとらえ、片足ずつ足裏全体を使って全体重を地面に流し込むイメージを心掛ける。安易につま先で地面を蹴ってムリに前に進むわけにはいかない。この体重移動がうまく回転してくれないと体重はカラダの各パーツへの負荷として変化していく。負荷は蓄積され痛みとなって戻ってくる。足首、ヒザ、足の付け根といった感じに。こういった状況はかならず回避したい。これがハーフマラソンを走り切る必要条件と考えていた。
ここから先は、いつまでも続く緩やかな傾斜の連続が待っていた。心臓破りの坂ほどのインパクトはないにしてもじわりと上り続け、またじんわりと下り続ける。これならばなんとか走り美を継続できるとどこかで楽観視していた。しかしこのじんわりの坂はじんわりと体に疲労を蓄積させていた。折り返した時点ではこの調子この感じなら往路も復路もおなじ走り美でいけると思っていた。
およそ5キロを残して、そのとき足が止まった。足が前に出ないのである。それまで走ってきたようにはいかない。もっとも体にこたえたのは残り5キロの手前の緩やかでかつロングな下りと緩やかでまたロングな上りであった。これらロングロングな傾斜を走っている途中、ただでさえ少ない後続のランナーに次々と抜かれていった。もう自分でもガス欠感は否めなかった。
走りにおいて唯一の支えは走り美を保てているという気持ちだけであった。体のパーツに痛みは特に感じない。だから走り美を継続できていると。
でも応援してくれたワイフと友人の目にそうは映っていなかった。「大丈夫か」「続けられるか」という声が「ガンバレ」のなかに交じるようになっていた。もう止まるかと、足を止めてリタイアするかと思っていたらしい。もし世に言うタオルを投げるということがあるなら、このときだとも考えていたそうだ。
あと5キロ、ただ進む。進みたくても進めない。行きはあんなにも景色が動いてくれたのに、帰りはまるで定点観測のようだった。この道のりはとにかく長かった。コース近くを散策する親子の徒歩にもまったく追いつけない。いっそ歩き美にプラン変更かと思ったりもした。
「疲れた〜っ。」
ゴールの第一声はこれでした。はじめてのハーフマラソン挑戦、無事完走で終えることができました。とにかく疲れた。ゴール後、Nadjaさんにいただいたカステラの張り付いた紙ごと食べるぐらい疲れた。
走り終えて思う。走り美を最後まで貫いたからこそ完走できたといえるし、走り美が未完だからこそ完走も危うかったともいえる。ただ、成果もある。体に疲労は残ったが、痛みは残らなかった。走り美のコンセプトであるムリのないムダのない走りが実践できているからだと考えたい。そして走り美の方向性は間違っていないと信じつつ、また走っていきたい。
しかしハーフマラソン、よくがんばった。
応援ありがとうございます。